暗号資産取引による所得と副業の判断~雑所得に係る所基通改正案~

会社員として給与収入を得ている方の中には、物品や、最近であれば流行りのNFTのようなデジタルコンテンツを売買することにより、本業の他に収入を得ている方がいらっしゃるかと思います。

このようないわゆる「副業に係る所得」や、デジタルコンテンツ等の暗号資産取引、シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」について、これまで所得区分の判定が難しいという意見があったほか、本来であれば本業の事業と言えないような規模で行っていたものについて「事業所得」として申告を行うことにより、青色申告特別控除(最大65万円)を適用するケースが存在していました。

 

これらの問題に対応するために、去る8月1日に国税庁から雑所得に係る所得税基本通達のうち、雑所得等に係る改正案に関しての意見募集が開始されました。
今回公表された、当該所得税基本通達の改正案のポイントは下記の通りです。

 

【1】「その他雑所得」及び「業務に係る雑所得」の範囲の明確化
現行法令上、雑所得は下記の3つに区分されており、所得金額が年間20万円を超える場合には、原則として確定申告が必要になります。
① 公的年金等に係る雑所得
② 業務に係る雑所得
③ その他雑所得
このうち③の「その他雑所得」について、これまで所得税法基本通達においてその範囲が例示されていましたが、暗号資産取引による所得などがこれに含まれるかの判断が曖昧となっていました。今回の改正案では新たにその範囲に「譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得」が加えられており、暗号資産取引による所得等はこの範囲に含まれることとされています(改正案:所基通35-1)。
また、「業務に係る雑所得」について、これまでNFTなどデジタルコンテンツの売買に係る所得が含まれているか定かではありませんでしたが、今回の改正でこの範囲に「営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得」が含まれることになりましたので、デジタルコンテンツの売買に係る所得についてもこの範囲に含まれることが明確化されています(改正案:所基通35-2)。

【2】本業と副業との判定基準
これまで、所得税において「本業(=事業所得)」と「副業(=雑所得)」との区分について明確な判断基準がなく、ある種納税者自身の判断において、その事業に係る所得金額の多寡によって事業所得として申告をしたり、雑所得として申告をしたりすることが一般的でした。ただし、事業所得については雑所得と異なり、最大65万円の青色申告特別控除の適用が認められているため、本来事業所得として取り扱うべきでないような規模のものについても事業所得として申告を行うことにより、当該控除の適用を受けるケースや、損失が生じた場合に給与所得等と損益通算を行うケースが存在していました。
今回の改正案においては、「事業所得」と「雑所得(業務に係る雑所得)」との判断基準が示されており、具体的には「その所得を得るための活動が」「社会通念上事業と称するに至っているかどうか」で判定することとされています。なお、例外的に、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、「雑所得(業務に係る雑所得)」に該当するとされています(改正案:所基通35-2)。
つまり、改正後においては、収入金額が300万円以下の副業に係る所得は「雑所得(業務に係る雑所得)」に該当することとなり、事業所得として申告を行うことによるメリット(青色申告特別控除の適用/発生した損失に係る給与所得等との損益通算)を享受することができなくなることになります。

ここで「収入金額が300万円を超える/以下である場合には無条件で事業所得/雑所得に該当するか」という点がありますが、例えばこれまで継続して事業所得として確定申告を行っていた者について、特殊な外的要因(新型コロナウイルスの影響や天災など)によって収入金額が300万円以下となった場合には従来通り事業所得で申告することが認められるものと解されます。また、収入金額が300万円を超える場合においても、直ちに事業所得に該当するわけではなく、原則通り、「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行われているか」により判定を行い、該当するものであれば事業所得、該当しないものであれば雑所得(業務に係る雑所得)として申告を行うべきものと思われます。

本稿では、公表された雑所得に係る所得税基本通達の内容について解説しました。
これらの改正案については、現在意見を募集している最中ですが、順当にいけば令和4年分以後の所得税に適用される予定となっています。

なお、令和2年度税制改正において、令和4年分以後の所得税から前々年分の雑所得を生ずべき業務にかかる収入金額が300万円超の雑所得者については、領収書等の5年間の保存(1,000万円超の雑所得者は収支内訳書を確定申告書に添付)が義務付けられており(これまでは不要)、副業している納税者が適正に税務申告できていないことに税務当局が本腰で監視を強めており、納税者はこれまで以上にしっかりとした納税手続きを行っていく必要性が高まっております。

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