法人の設立及び決算申告に係る税務上の留意点

新規に法人を設立して事業を行う意欲のある方が、法人を設立して決算申告を行うにあたり、税金の仕組みや決算申告等の勝手がわからず戸惑うというお話をお伺いします。

 

色々な仕組みを理解しないまま、安易にネット等で調べた知識のみで対策を行い、税務申告等を誤り、結果として事業の存続が危ぶまれる事態になることを避けるために、税金の仕組みについて理解を深めることは非常に重要だと考えます。

 今回は、新設法人の決算申告に関する留意点等についてご紹介させていただきます。

 

【1】法人の設立に係る税務上の留意点

法人の設立に際し、税務の観点から一般的に留意が必要となる項目は下記の通りです。

 

(1) 資本金額

現行の会社法上、資本金額については下限の定めがなく、極端な話1円でも会社設立自体は可能です。とはいえ、銀行担当者や取引先の目を気にして、ある程度まとまった金額を資本金とする方も多いと思いますが、この際に気を付けなければならないのが下記の2点です

① 消費税の納税義務

原則として、会社設立時の資本金額が1,000万円未満の法人は、事業年度が1年間の法人の設立第1期と第2期の事業年度は消費税の免税事業者となります。

逆に言えば、設立時の資本金額が1,000万円以上の場合には、消費税を納める必要がありますので、これらのことを踏まえて資本金額を決定する必要があります。

なお、資本金額が1,000万円未満であっても、例えば初年度に売上は見込まれていないものの多額の設備投資を予定している場合など、消費税の還付を受けたい場合には、期限までに届出書を提出して敢えて消費税の納税義務者になる方法もあるので、設立第1期~2期の事業計画に応じた適切な選択をすることが重要になります。

 

② 住民税均等割

法人が納める必要のある税金の一つに「法人住民税均等割」というものがあり、この金額がいくらになるかの判定も資本金額に基づきます(正確には「資本金等の額」になりますが、便宜上本稿では同一のものとして取扱います)。

具体的には、東京都23区に本社がある法人の場合、資本金額が1,000万円以下である場合の税額は年間7万円(従業員50人超の場合14万円)である一方、1,000万円を超える場合にはその金額及び人員数に応じて18万円~最高で380万円の税額になります。

 

(2) 事業年度

法人の税務申告は、原則として決算の末日から2か月以内に行う必要があります。設立後すぐに決算を迎えると資金繰りの観点から苦しくなる可能性がある点や、第2期の消費税納税義務(※1)の観点から、決算月をいつにするかの検討を行う必要があります。

(※1)資本金額が1,000万円未満であっても、第1期目の前半6か月の課税売上高(消費税のかかる売上)及び給与の支払額が1,000万円を超える場合には、第2期目は消費税を納める義務がありますが、第1期目の事業年度が7か月以下である場合には、これらに関わらず消費税の納税義務が免除されます

 

【2】新設法人に係る決算申告の留意点

(1) 赤字でも発生する税金がある

設立第1期目の場合には、一般的に売上に比し経費の発生が大きく、結果として赤字になることにより法人税が課税されないケースも多いかと思います。

ただし、この場合においても、下記の税金が発生((1)については必ず、(2)については事業の状況に応じて)する可能性がありますので、留意が必要となります。

 

① 住民税均等割

上記で紹介した法人住民税均等割については、「その法人が享受する行政サービスの対価」という性格を有していることから、例え赤字であっても納める必要があります。

 

② 消費税

資本金額等による判定の結果、消費税を納める義務があり、預かった消費税が支払った消費税を上回る場合には、赤字であっても消費税を納める義務があります。

 

(2) 事業年度が1年に満たない場合、様々な分野の計算で注意が必要となる

会社設立第1期目は事業年度が1年未満であることが多いため、決算申告に際し下記の点で留意する必要があります。

 

① 法人税の軽減税率が適用される課税所得

中小法人(資本金額1億円以下の法人)は法人税の軽減税率が適用され、年間800万円までの所得に対しては15%の軽減税率により法人税が課されますが、事業年度が1年未満の場合、適用される金額が下記で計算した金額となります。

800万円×事業年度の月数/12

 

② 交際費等の定額控除限度額

中小法人は、年間800万円までの交際費等が全額損金の額に算入することができますが、事業年度が1年未満の場合、限度額は下記の通りとなります。

800万円×事業年度の月数/12

 

③ 減価償却

減価償却費については原則として「取得価額×償却率×使用月数/12」により計算を行いますが、事業年度が1年未満の場合には、上記の償却率に代えて、下記により算出した償却率を用いる必要があります。

償却率×事業年度の月数/12

 

④ 一括償却資産

資産の取得価額が10万円~20万円未満のものについては、一括償却資産として3年間で均等に償却することができますが、事業年度が1年未満である場合には、下記の算式により算出した金額が限度額となります。

一括償却資産の取得価額の合計額×事業年度の月数/36

 

⑤ 少額減価償却資産の特例の限度額

青色申告法人の中小法人については、少額減価償却資産の特例により、取得価額が30万円未満の固定資産について限度額300万円まで一括で損金の額に算入することができることになっていますが、事業年度が1年未満である場合には、下記の算式により算出した金額が限度額となります。

300万円×事業年度の月数/12

 

⑥ 住民税均等割

住民税均等割については、「税額×事業年度の月数/12」により月数按分を行った税額を納付する必要があります。事業年度が1年未満である場合、この算式で計算を行う際に1か月未満の端数が生じることになりますが、この端数については「切り捨て」になります。ただし、その事業年度が1か月に満たない場合には、切り上げて1か月としてカウントする必要があるので留意が必要となります。

 

【3】誤った決算対策

事業年度が概ね中盤を超えてくると、期末までの利益の予測等がある程度立ってきて、期末の納税額についても徐々に具体化されるものと思います。

中には「税金を支払うのであれば、同じ支払うのでも好きなものを買ったり接待などで使ったりした方がいい」と言われる社長様がいらっしゃいますが、果たしてこれは正しいのでしょうか。

例えば、結果として事業年度を通じて500万円の利益が出た場合、納税額(簡便的に法人税額のみ)の試算は下記の通りです

納税額:500万円×15%=75万円

ここで、納税が発生することを嫌って、「どうせ税金で持っていかれるのだから好きなように使おう」と、事業年度のラスト1か月のタイミングで500万円の社用車を新車で現金一括で購入したりすると、非常に厄介なことになります(中古車購入の場合また別途論点がありますので本事例においては新車を前提としています。)。

なぜなら、新車で購入した車については、一度に損金の額に算入することはできず、減価償却を通じて数年間にわたり損金の額に算入する必要があるため、購入した事業年度に損金の額に算入することができるのは、概ね17万円(500万円×0.417(車両の耐用年数6年の場合の償却率)×1か月/12)のみとなります。

従って、納税額について大きな減少はない((500万円▲17万円)×15%=73万円)にも関わらず、現金一括で車を買ってしまったばかりに納税資金も準備することができない、という最悪な状況になってしまいます。

もし当初の予定通りに税金を支払っていれば、税金の支払い後でも425万円の資金が手許に残るので、例え一時的には負担に感じたとしても、これを元手に更に事業を成長させていくのが正しい選択であると思われます。

 

法人設立の際の税務上の留意点及び第1期目の決算申告に関する留意点については、概ね以上の通りになります。

 

制度として知っているか/いないかというだけで、結果として負担することとなる税額が大きく変わってしまう可能性についてご理解いただけたのではと思います。

 

ただし、ただでさえ事業の立ち上げから運営まで一手に担う皆様が、税金の細部にわたるまで理解した上で適切な対応をすることは非常に大変かと思いますし、本業について

注力することができるよう、かゆいところまで手が届くような存在になるようサポートして、事業の成長に寄与するのが税務のパートナーとしてのあるべき姿であると考えております。

 

貴社において、信頼できる税務のパートナーはおりますでしょうか。

 

弊社の顧問は記帳ではなく、現状の経営状況・今後のビジョン等踏まえて貴社に対する最適解を提供させていただきます。また、税務顧問は記帳をして少し話すだけという考え方を変えていただきます。

私どもではこれまでの知見から、豊富な税務プランニングを有しており、皆様それぞれの状況にあった最適なプランニング案(相対的に否認リスクが低いと思われるもの)をご紹介させて頂きます。

貴社のお力になれることを確信しておりますので、是非シーズ税理士法人までご相談ください。

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